愛犬りょう6
きのうの夜は、大変であった。
8時前から、りょうは小屋を抜け出し、隣のマンションを眺めていた。
どういうわけか、そっちばかりを見ているので、何かいるのかと、いつも不思議である。
りょうは、目は見えない。
しかし、ずっと見続けているのである。やがて、人の気配に気づくと、ハアハアと荒い息をし始めた。
これも、いつも同じである。
しかし、きのうはいつもと違った。
喉に何か詰まったみたいに、鳴き始めたのだ。これには、慌ててしまった。隣の犬も裏の犬も、亡くなる前に、大きな声で吠えていたという。どうしても、鳴き止まず、夜中も昼間もそうであったようだ。
その話が脳裏を横切り、えらいことになったと感じた。ずっと家にいる母が、昼間もこうだったと、平気な顔で言った。
ますます深刻になった。物忘れの進んだ母にとっては、自分とは関係ないことのようだが、もうダメかもねと、無神経に言い放った。
同じく、変な鳴き方に気づいた子どもが、駆けつけて、喉や胸をさすり始めた。きちんと座っているので、そうしてやると、気持ちが良いみたいだ。
しかし、まだまだ鳴き続けるので、診察してもらえないか、近くの動物病院に走った。閉まっていた。
帰ってくると、わずか3分ほどであるのに、落ち着いてきていた。子どもが必死に声をかけて、さすっていた。
何か、喉に詰まっていたのだろうか。
20分ほどの間に鳴かないようになった。
一晩中、1時間おきに様子を見に行ったが、なんとか朝を迎えた。朝の4時には、おすわりをして、ご飯を待っていた。
大事にしてやらないと、残りの時間はあまりないかも知れない。