なんと前歯の生え際がぽろり。
五種類の歯ブラシを駆使して歯ブラシをしていたのに、なんと、前歯の付け根に茶色いものが。
しかも凹んでいる。
そんな目立つものなのに、今頃気がついた。
えらいことだと焦ってしまった。
もし、付け根だから歯茎に悪影響が出て、処置できないとか、最悪の場合、治療ができなくて抜いてしまいインプラントとか言われたら、もう一巻の終わりである。
しかも前歯だ。
よほど大口を開けて、しかも、上唇をチンパンジーのようにむき出しにしないとわからないのであるが、急に、上唇がその凹みに違和感を感じるようになってきた。どうしてこんなになるまで気づかなかったのだろう。
なぜか深く後悔をしてしまった。
早速数年前まで通っていた歯科医院に連絡した。しかし、少し躊躇した。腕はいいが、性格が合わないのである。お年寄りに頭ごなしに偉そうに言ったり、治療の間にあかんなあとか、どうなっているのだと、ブツブツ言うところである。医者と教師は絶対失敗を口にしてはならない。またお年寄りに偉そうに言うのは良くない。もっと口を開けろとか、前に説明したやろうとか、偉そうな口を叩く。
ヒトはもう80を過ぎれば、もうヒトでは無く神なのである。失礼な態度は軽蔑に値していた。そういう歯科医であるが、腕は確かだ。きちんとした仕事ができる。人間関係が雑なだけである。
罵られるのが心配ではあったが、一応腕を信頼して予約を入れた。カルテが残っていて、覚えていてくれた。そういえば、何年かぶりにハガキも来ていた。
後から、やはり痛いのは嫌だから、近くの女医さんのところはどうだろうと調べてみた。診療日が少なくて、おまけに治療の見積もりと書いてあったので、高いかもしれないと恐れおののいてしまった。
やはり、腕を信じて前の歯科医のお世話になろうと予約の15分前に行った。誰も待合にはいなかった。すぐにお年寄りの女性が来て、先に診察室に通された。中から聞こえてくる歯科医の声は相変わらずであったが、話し方がすごく丁寧である。
こんな数年でヒトは変わるのだろうかと疑っては見たが、なんらおかしなことはなかった。なにかが、変わっているのだ。ということは、痛くも痒くもない、優しい治療が待っているのであろう。
名前が呼ばれ、診察室に入る。
空いている椅子というかベッドというか、決して座り心地の良くないものに座った。
エプロンやテッシュケースがすごく可愛くなっていた。どうしたのだろう。と、思いながら、先生と話をした。マスクを外した先生を見るのは、初めてであった。
数年で何もかも変わるのだなあと感じた。
治療は、完璧にうまい。失敗したもなかったし、アレっていう言葉も聞かなかった。
来週から、歯磨きに通う。
相変わらず、いい加減にしか歯磨きをしていないわたしは、五本指になぞらえた、五本の歯ブラシと、いつも突然現れては充電に走る5種類の電動歯ブラシがあることで、安心安全を決め込んでいるのであり、なんら変化しない、困ったヒトなのである。
ビーバー